――――きっかけは、とある人物との出会い。
妙な言葉遣いの風変わりな女の子だった。
「あのですねあのー、チトル達は今、一緒にお仕事してくれる人募集中なのですなのー。よかったら一度、来てみませんかきてー? お仕事、ありますよありー」
そしてそれ以上に、マニャンの中心都市バルネッタの街中において、彼女の格好は妙だった。
全身甲冑。
今時城でも見かける事はまずないその格好に、クワトロは思わず眉をひそめた。
「あのあの、来てみませんかきてー? お仕事、ありますよありー」
兜の隙間から見える、その愛らしく朗らかな笑顔は、到底甲冑と相容れない。
しかし不思議と違和感なく馴染んでいる風でもある。
クワトロはその少女の中に、戦士を見た。
勇ましく必死に戦う者の姿を見た。
「えとえと、お仕事、ありますよありー」
少女は勧誘を繰り返す。
与えられた責務なのだろう。
明らかにぎこちなく、そして拙い。
それでも彼女は必死だった。
「お仕事……ありますよありー」
懸命に――――同じ言葉を繰り返す。
だが声は徐々に小さくなっていた。
返事をしないクワトロを怖がっている……というよりも、弱気になっている。
それでも声をかけ続けるのは、彼女が自身に与えられた役割を全うしようとしているからだ。
理由はわからない。
何故このような少女が、全身を甲冑で覆っているのか。
仕事の勧誘などをしているのか。
理由は何もわからない。
ただ、クワトロは直感した。
彼女の居場所を護らねばなるまい――――
そう思わざるを得なかった。
懸命に生きる子供には、健やかに育つ環境が必要だとクワトロは知っていたが為に。
「おしごと……」
いよいよ少女の声が弱々しいものになったところで、クワトロは微笑みを向けた。
決して笑うのは苦手ではない。
恥ずかしくもない。
けれど、似合わない。
その事はよく知っていたが、それでも微笑む理由が出来た。
「ならば、話を聞かせて貰うとしよう」
「……ふえ?」
「案内して貰えるかな?」
「あ、案内しますないー! ありがとうございますありー!」
パアッと、兜の隙間から覗く少女の顔が明るく笑む。
その笑顔は、ここに到るまで疲れ果ててしまっていたクワトロに、生きる活力を与えた。
決して大げさでなく。
人間は、そんなちょっとした補修の連続で、どうにか生命を縫い合わせているのだから。
例えそれが、半ば人道に背く自我だとしても。
自分の存在がいつか彼女を脅かす日が来るかもしれないと危惧しつつも、強く思う。
我が、彼女の居場所を護らねばなるまい――――
今日もその為、研ぎ澄まされた精神と鍛錬された肉体を虐め、磨いていく。
クワトロ=パラディーノはそんな自分の生き様を、善しとしていた。
これは、そんな明ける事なき夜想曲。
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