それは突然現れた。
余りにも唐突過ぎて、ユグド=ジェメローランは自分が今何処にいるのかすら失念してしまう程だった。
だが、非常事態ほど冷静にならなければならない。
それが生きていく上で非常に重要であることを、ユグドは知っていた。
腕力もなく、体格も平凡。
戦闘力という点において、恵まれた才能は一切ない。
幸いにも、比較的平和な時代に生まれた。
とはいえ、それでも降りかかる火の粉を払うくらいはしなくてはならない。
まして、護衛という仕事を生業としている身である以上、戦闘に関与する可能性は高い。
であるならば、自分にあるもの、自分の持つ武器で闘わなければならない。
すなわち、頭だ。
ユグドは冷静さを取り戻し、頭の中を高速で整理した。
ここは――――宗教国家ベルカンプという国の、とある宿の一室。
仕事を終え、ここで一泊して明日、拠点である中立国家マニャンへと帰る予定だった。
だが、残念なことに、トラブルが発生してしまったようだ。
問題は質だ。
急襲してきたこのトラブルの質は、如何ほどか。
ユグドは分析を始めるべく、目の前に現れた脅威を鋭く見据えた。
その視界に収まったのは――――
――――骸骨だった。
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