ダガー。
クリス。
ククリ。
チンクエディア。
ソードブレイカー。
マンゴーシュ。
スティレット。
カタール。
ダーク。
マキリ。
グラディウス。
ショートソード。
ロングソード。
ファルシオン。
バスタードソード。
カットラス。
ショテル。
シャムシール。
クレイモア。
ツヴァイハンダー。
イウルーン。
フランベルジュ。
シミター。
セイバー。
レイピア。
エペ。
アームブレード。
ショートスピア。
スピア。
ロングスピア。
ランス。
ジャベリン。
パルチザン。
コルセスカ。
グレイブ。
トライデント。
ハルバード。
ピルム。
ウォーハンマー。
フレイル。
モーニングスター。
トマホーク。
フランキスカ。
バトルアクス。
クレセントアクス。
クラブ。
メイス。
ワンド。
スタッフ。
ロッド。
ショートボウ。
ロングボウ。
クロウ。
ネイル。
スモールシールド。
バックラー。
タワーシールド。
カイトシールド。
ヒーターシールド。
ラージシールド。
ハット。
ヘルム。
マスク。
グラブ。
ガントレット。
ブーツ。
グリーヴ。
ブリガンダイン。
ラメラーアーマー。
メイル。
クロス。
プレートアーマー。
フリューテッドアーマー。
古今東西、あらゆる武具がギッシリと敷き詰められた守人の家は、いつぞや船舶の内部で行われた武器博覧会以上に"武器の祭典"と呼ぶに相応しい様相を呈していた。
アクシス・ムンディの拠点である守人の家は、決して広くはなく部屋も少ない。
なので1,000人分の武具を収納するには、応接室も会議室も廊下も炊事場さえも倉庫にせざるを得ない。
その結果――――守人の家は武器・防具がゴミのように山積した武具屋敷と化してしまった。
「これで最後です。皆さんお疲れ様でした」
当然そのままにしておく訳にはいかず、アクシス・ムンディは団員総出で丸一日かけ、建物の前に積まれた全ての武具を中へと入れ終えた。
既に日は暮れており、外は満天の空が労いの光景を映し出している。
「あ、あり得ないっしょ……こんな力仕事を音楽家にさせるなんて労災も同然っしょ……」
「ユイだって格闘家だけど運び屋とは違うにゃ……しんど過ぎて目からも鼻からも口からも汗が噴き出るにゃー……」
「俺様だって本業は占星術士なんだよなぁー……こんな武器商人みてぇーな真似したくねぇよぉー……」
だが、そんな光景など建物内から見える筈もなく、武具で埋まった会議室にセスナ、ユイ、シャハトの悲鳴よりも悲鳴じみた泣き言が雨のように降り注ぐ。
その一方で、同じように重労働に明け暮れながらも半数以上の団員がグッタリと床に伏せる事はなく、それぞれ収容した武具を興味深げに眺めている。
特に自らも得物を使用する戦闘要員の面々は、自身の専門とする武器を食い入るように観察していた。
「なあ、クワトロの旦那。なんつーか……微妙な武器多くね?」
その一人、トゥエンティがロングソードを掲げつつ、クワトロに訴えかける。
それに対し、クワトロは手にしたクレイモア以上に鋭利な目つきで小さく頷いた。
「粗悪品とまでは言わぬが、切れ味や耐久性に疑問の余地がある剣が多いやもしれぬ。恐らくは……」
「売れ残り、でしょうね」
隣で鉄製のパルチザンをじっと眺めていたユグドは、クワトロの言葉を先回りしてそう断言した。
武器屋の倅として生まれ、ラシルの為に世界各国の武器を見繕った事もあるユグドは、戦闘要員ではないものの武器を見る目はある。
その目に映った物は、どれもこれも微妙に質の低い武具。
一目で酷いとわかる物はなく、かろうじて商品として成立するものの、購入を検討するのはまだ何も知らない駆け出しの冒険者くらいだろう――――そんな評価を下さざるを得ないような得物ばかりだ。
「チトルの鎧よりへっぽいのばかりですへぽー」
「大した金属も使ってないし、かといって鍛冶師見習いの作った試作品ってほどでもないし……確かにヘボいってよりはへぽいって感じね」
チトルとスィスチの見解も、ユグド達と同様。
モーニングスターを片手で振り回すウンデカも、エペを持ちながら舞うという迷惑行為に勤しむフェムもまた、その表情は明るくない。
要するに、質の低い武器1,000人分を押しつけられた格好だ。
「迂闊でした。まさかこんな強硬策に出るとは……オレの責任です」
ゲルミルに対し、"買う"という言葉は使わなかったものの、断りもしなかった事をユグドは悔やんでいた。
とはいえ、仮にも特定非営利活動法人の代表を名乗る人物がここまで露骨で強引な手段に出るのは、幾らなんでも想定出来ない。
これだけの武具を送りつけるとなると、その手配だけでも一苦労だ。
1,000人分の武具を揃える困難さは勿論の事、荷馬車を二十台も直ぐに準備出来る運送業者を探すのも簡単ではないのだから。
計画的犯行なのは明らか。
だが、このような行為をやり慣れているというのは考え難い。
余りにも手口が豪快過ぎる。
「組織ぐるみの犯行。それもかなり多くの共犯者がいると推察せざるを得ませんわね」
シュバッ――――と空気を裂き、舞を止めたフェムが珍しく鋭い指摘をみせた。
王女という身分の割に余り存在感がない彼女の唐突な覚醒に、周囲の面々は驚愕の表情で一歩後退る。
特に、寝転がっていたユイとセスナは動揺を隠せずオロオロしている。
「……あたくしが知的な一面をお見せしただけで、そこまで驚かれるとは思いませんでしたわ」
「それはそうっしょ! 王女で踊り子なんて頭空っぽそうな肩書きの女が急にカッコ付けるなんてズルいっしょ!」
「裏切り者だにゃー! イロモノはイロモノらしくイロモノっぽい発言だけしてりゃいいにゃー! イロモノなのに頭がいいとかリーダーに対する当てつけが過ぎるにゃ!」
「そうだよぉー! リーダーなのにイロモノで頭も悪い俺様の存在がますます矮小になるだろぉーがよぉー! 俺様に謝れよぉー!」
「てめぇーセスにゃー! 勝手に人の声色使ってフザけた事言ってんじゃねぇーぞぉー! にゃはははは!」
「……あいつらぁー……後で殺すぅー……占いで『明日の運勢は死。気を付けましょう』って出してやるぅー」
相変わらずリーダーとしての威厳がないシャハトは、セスナとユイに声色を多用され遊ばれていた。
なお、反撃しようにも疲労困憊で動けない。
それは体力もないのに率先して武具を建物内へ運んだ生真面目さによるもの――――とユグドはひっそり感心していたが、それを褒めるのは流石に失礼だと判断し、黙っていた。
「私もフェムさんの意見に賛成。売れ残った武具の在庫処理を押しつけてきたんだとしたら、〈ゴーイン〉の独断で出来る事じゃないもの」
「保連も一枚噛んでいる、と見るべきであるな」
スィスチとクワトロの意見にユグドも異論はなかった。
だが――――それだけではない。
武具の余剰在庫を換金する事だけが目的なら、そもそもアクシス・ムンディのような小規模の護衛団を標的にはしないだろう。
「先日の依頼も影響しているかもしれませんね」
すなわち、要塞国家ロクヴェンツの大富豪オライワン=ベイグランドからの依頼。
アクシス・ムンディはそこでロクヴェンツの特殊部隊に一泡吹かせた。
もし、その事に対しオライワンが忸怩たる思いをしていたとすれば――――
「私怨の可能性もある、と?」
先程の反撃とばかりに先回りして問いかけるクワトロに、ユグドは大きく首肯する。
武器マニアという特性もまた、今回の件との関係性を示唆するものだ。
だが裏付ける証拠がない限り、断定する事は出来ない。
それに、ユグドが目していたようにオライワンが富豪というだけでなくロクヴェンツにおける要人であるならば、私怨で外国の護衛団を虐めるような真似をするとは考え難い。
結局のところ、推測の域は出なかった。
「っていうかァン、これじゃ食事も作れないじゃなァいィィィ! ワタシの乙女修行が捗らないわァァァ!」
「チトルもこんなに武器防具要らないですいらー! 特に全身鎧とか甲冑はチトルと間違えられそうで不本意ですふほー!」
巨体オカマと鎧娘が面妖な方向でいきり立っている。
彼女達の私的な憤怒はともかく、建物全体が武器庫と化している現状は大問題だ。
このままでは拠点として機能しない。
どうにかして、これらの重すぎる荷物を取り除かなければならない。
更に問題は――――
「で、このポンコツの武具1,000人分で一体幾ら催促されたの?」
汗を掻いたのか、薄着になっているスィスチに問われたユグドは苦虫を噛み潰して今にも吐き出しそうな表情で、請求書を見せた。
その記載を見た瞬間、スィスチの顔から表情が消える。
「……これマジ?」
「ええ。伝説的な武具や高価な材質の物はなくても、1,000人分の武具となると額もケタ違いですね」
請求額は1,000,000クラウン。
アクシス・ムンディ全員分の年収を上回る数字であり、守人の家を売却しても支払える金額ではない。
もし素直に支払えば、その瞬間にアクシス・ムンディは潰れる。
「これは……あたくしのお小遣いでもちょっと無理っぽいですわね」
王族のフェムですら唸る金額だった。
「支払期限は一ヶ月後。それまでになんとかしないと、アクシス・ムンディは保連から追放される訳です。かといって、こんなアホみたいな数の武具を全部購入する訳にもいきません。ただ、問題は対応の仕方です。仮に何らかの奇跡で支払いが出来たとしても、味を占めて次々と過度な要求をしてくるのは目に見えてます。そうなれば、今回の件を凌いでもいずれは潰されるでしょう」
「もしかして……手詰まりにゃ? これってアクシス・ムンディ史上最大のピンチにゃん?」
ようやく事態が飲み込めてきたのか、ユイがぷるぷる震えながら現実の過酷さに怯えていた。
「厄介な輩に目を付けられてしまったな。どうするのだ? ユグドよ」
そう問いかけたクワトロだけでなく、全員の視線がユグドに注がれる。
今回の件、ユグドはきっかけとなったリンの漏洩に関して一切他の団員には話していない。
その為、ユグドの責任――――
「どうせユグドの事だから、何か考えがあるにゃ?」
「そうそう。こんだけされて泣き寝入りする訳ないもん、ユグドが」
「戦えねーだけで、根は悪魔みてーなヤツだもんな」
「そんな例え可哀想よぉン。せめて悪魔の親戚って言ってあげてェン」
「あんまり変わらないけど大体合ってるっしょ」
「あら、あたくしは悪霊の化身だと思いますわ」
「チトルは邪神の末っ子だと思うですおもー」
――――と思っている者はいないようだが、それ以上に酷いイメージが定着していると発覚した。
「オレ、そんなに邪悪ですかね……?」
「恐らく『悪魔的知恵』といった意味合いで皆言っているのであろう。気にするでない」
そう答えつつも、クワトロは視線を逸らしていた。
「どぉーだユグド。俺様は毎日こんな感じで虐められてるんだぜぇー。俺様の苦悩がわかったかよぉー。もう少し俺様に優しくするよう言ってくれてもいいんだぜぇー?」
そしてシャハトは相変わらずしょうもなかった。
「……とにかく、対策を練ります。でもその前に一つ、確かめたい事が」
徒労感を漂わせつつも、ユグドは山積みになっている武具の中から、ショートソードを手に取って鞘から抜く。
「これらの武具が、何処で作られた物なのか。まずはそれを確かめないと」
敵の全容を知らずして対策は立てられない。
そしてユグドは今回の件、密かに誰よりも激怒していた。
ゲルミル=ゴーインへの苛立ちだけではない。
武器が粗末に扱われている――――その事実にも少なからず腹立たしさを覚えていた。
「調べるんなら、リーダーに占って貰ったらどう? 久々に」
「そうですね。裏付けは必要ですけど、とっかかりとしてはいいかもしれません。リーダー、お願い出来ます?」
「フッ……本業のご依頼とあっちゃ断われねぇーよなぁー。武具の生産地だなぁー? 任せろよぉー!」
先程までの生気のなさもどこ吹く風、シャハトは凄まじく俊敏な動作で外へと出て行く。
「……当たるのか?」
団員になって間もないトゥエンティが、誰にともなく呟く。
普段のリーダーのへっぽこ振りを目の当たりにしている彼女からすれば、当然の疑問だ。
「彼から占いを取ったら数十年分の生きるゴミしか残らない、ってくらいにはね」
「そ、そこまで言うなら信じるしかねーや」
スィスチの目が一切笑っていなかったのと、他のメンバーからの反論が一切なかった為、トゥエンティは生唾を呑み込みながら納得した。
十五分後――――
「終わったぜぇー」
シャハトが一仕事終えた男の顔で戻ってくる。
久々に見せ場が来たとあって、この上なく充実した面持ちだった。
そして、ここからが俺様の時間だ、と言わんばかりに、いちいち仰々しい挙動で会議室内の武具の山を登り、中央で仁王立ちした。
「聞いて驚けぇー。この1,000人分の武具、全部同じ国で作られた物さぁー」
「やっぱりマニシェでしたか」
「うわぁーーーーー! そんな急にぃーーーーー!? ここから勿体振って俺様のありがたさを痛感させる筈だったのがそんな急にぃーーーーー!? 」
第一ヒントで見破られ、シャハトが腰砕けになる。
「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
結果、武器の山に尻餅をつき、槍の尖った先端が突き刺さるという、本当にどうでもいい不幸に見舞われた。
「余計な事しようとするからにゃ……見せ場までポンコツじゃ救いようがないにゃん」
「でも、リーダーはこうでなきゃダメっしょ。見せ場のあるリーダーなんてリーダーじゃないっしょ」
「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーっ! ぎゃっぎゃーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
散々な言われようだったが、武器の上を転げ回り更なるダメージを追い続けているシャハトの耳には届いていなかった。
「ところでユグドさんとこー、どうしてマニシェだってわかったんですかわかー?」
「ええ。それを解説するにはマニシェという国の生い立ちから語る必要があって……」
「100字以内でお願いしますおねー」
チトルは何気にユグドの扱いを心得ていた。
「……鋭意努力します。100字か……」
締め付けられるような痛みをこみかみに感じつつ、ユグドは解説すべく頭の中を整理する。
そして、どうにかまとめ上げたところで、目をクワッと見開いた――――
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