「私達は――――四人組アイドルユニット【エリクシィル】です!」
余りに唐突な、そして突拍子もない大声での宣言に、その場にいた多くの人間は視線を声の方へ移動させた。
"アイドル"と名乗った彼女達の服装は、それぞれの特色に合わせた色合いになっていて、フリルの付いたデザインは可愛くもあり、滑稽でもある。
そしてその滑稽さこそが、重要な意味を持っている。
「今日はこれから、私達のデビュー曲を聴いて貰いたいと思います!」
「ま、まだ上手く踊れないけど、ええと……と、とにかく、踊ります」
「みなさんも一緒に身体をブンブングイグイ動かして下さーーーい!」
「その……精一杯踊ります。宜しければ、少しの間見ていって下さい」
四者四様。
それぞれがそれぞれの言葉と表情で、観衆と化した周囲の一般人に向けてメッセージを送った。
長らく平和が続くルンメニゲ大陸。
安寧に身を委ね、揺りかごのようなこの場所で、人々は安らぎと癒やしを求め、喧噪なき世界で目を瞑る。
けれども、だからこそ刺激を求める者も少なくない。
ただし、命を落としかねないような危険を味わいたい訳ではなく、あくまでも凝った肩を強めに揉むような、痒い部分に軽く爪を立てるような、日常を小さく振動させる程度の刺激。
彼らの需要を満たす存在――――それがアイドルだ。
歌劇団や吟遊詩人、道化師に演奏家。
日常の中の小さな刺激を民衆にもたらす職業は少なくない。
ただ、それらの職種とアイドルとの決定的な違いは、技術。
アイドルの技術は、歌や踊りといった表向きのパフォーマンスに反映されるものばかりではない。
寧ろそれ以上に重要な技術が存在する。
「それでは聴いてください! 『回復したかった』!」
見る人の心を沸き立たせる笑顔。
斜に構えた人間には滑稽だと鼻で笑われるであろう、全力のパフォーマンス。
そんな笑顔を、彼女達は今、確かに弾けさせている。
果たしてそれは偶像なのか?
それとも現実の解き放った光の輝きなのか?
光に触れる事は誰も出来ない。
ただ、誰もが見る事は出来る。
アイドルとは――――そういうものだ。
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