- Lulu's view -


   これまでのあらすじ。
   女みたいな顔の少年情報屋が、幼女を愛した。


   と言う訳で――――リュリュ=ミントアークは絶賛片思い中。
   ただ、流石にそれが色々とヤバい事は自覚しており、
   リュリュは暫く思い悩んだ。
   なにしろ、誰かに相談できるような内容じゃない。
   したら捕まっちゃう。
   若しくは、貴族や王族の中に良くいる、裏で特殊な趣味に興じている
   デブで汗っかきな人々と同類になってしまう。
   それだけは、何としても避けなくちゃならない。
   リュリュはそんな決意を胸に、幼女ノノの事を忘れるべく、仕事に没頭した。
   その仕事とは――――フェイル=ノート容疑者の調査。
   ただ、フラワーショップから薬草店に戻った【ノート】には、もう行けない。
   既に顔は割れてしまっているし、なによりそこには女神がいる。
   男たるもの、女神には逆らえない。
   行ってしまえば、再び禁断の炎が心を萌やし尽くすだろう。
   リュリュは考えに考えた。
   そして、妙案を思い付いた。
   それは――――別件での確保。
   フェイル=ノート容疑者を、幼女手籠め罪とは別の犯罪で地下牢に
   ブチ込み、そこでそちらの罪も認めさせると言う方法だ。
   ただ、これには『フェイル=ノートが別の犯罪にも手を染めている』
   と言う事が絶対条件となる。
   当たり前の事だが。
   リュリュはその調査をすべく、立ち上がった。
   レカルテ商店街の子供達の平和の為に。

   そして――――初恋を忘れる為に。


   薬草店の店主が犯しそうな犯罪と言えば、『魔草』の密輸や販売。
   魔草とは、余りに毒性、依存性が強過ぎて、人間に様々な悪影響を与える
   草類全般を指す言葉だ。
   近年、この魔草の売人や利用者が急増しており、それが一つの
   社会問題となっている。
   リュリュはまず、エチェベリアで服用を禁止されている草の調査から始めた。
   その中で、現実的に入手可能な物、且つ高値で取引されている物は、
   以下の三種類。

   常習者を廃人へと追い込む魔草『ルドルフ・スティーブン・クラウザーブロウバッハ』。
   使用者に、ネコの耳を頭に付けた100歳の強欲ばあさんの幻覚が見えると言う
   『バッド・エンド』。
   子供が触ると一瞬で性神年齢が10上がると言う『クレシエンテ』。
  
   リュリュは迷うことなく、『クレシエンテ』の流通経路を探る事にした。
   間違いない。
   フェイル=ノート容疑者はこれを仕入れている。
   そして幼女をその気にさせている。
   だからこそ、自分もその幼女の魅力に絆されたんだ――――そう自己弁護し、
   全力で『魔草』の密輸ルートを追った。
   追った。
   追いまくった。
   結果――――リュリュは、地下にいた。
  【メトロ・ノーム】と呼ばれていると言うその場所に、どうやって訪れたのか、
   そもそも誰の紹介を受けたのかなどは、些細な問題なので省略する。
   兎に角、リュリュは【メトロ・ノーム】へとやって来た。
   そこは、法律の存在しない無法地帯。
   例え魔草を売り買いしようと、それを咎める者はいない。
   リュリュも、密売を行っている連中を捕まえようと言う気は元からない。
   全ては、フェイル=ノートの元に『クレシエンテ』が流れている事を
   証明する為。
   愛する女性を、おぞましい魔の手から救う為。
   省略した過程において、色んな葛藤の末、結局そう言う動機になったらしい。
   愛は強い。
   愛は勝つ。
   リュリュは、そんな歯の浮くようなフレーズを奏でる吟遊詩人をこれまで
   心の底で小馬鹿にしていたが、それは間違いだったとコッソリ謝罪した。
   荒んでいた自分を内省しつつ、【メトロ・ノーム】の管理人の家へと赴く。
   取り敢えず、挨拶しなくてはならないと言われている為だ。
   ついでに、そこで聞き込みをして、もし何か手がかりが掴めれば言う事なし――――
  「……」
   だったが、管理人は全然喋らなかった。
   情報屋と言う職業上、秘密主義の人間は腐るほど見て来ている。
   リュリュはこの程度では驚かない。
   動揺しない。
   鉄の魂で、管理人の無言攻撃をサラリと躱す。
   愛ゆえに。
   愛ゆえの強さで、終始沈黙を続ける絶世の美女の顔をじーっと眺め続けた。
   そして、思う。
   この御姉様、美しさのピリオドの向こうの人だと。
   無論、惚れた。
   巷では、この管理人と出会って、恋をしない男性はいない――――と言われている。
   リュリュは、流行に乗った。
   二股。
   精神的な。
   精神的とは言え、二股は人間のゲロ。
   あるいはフケ。
   いずれにせよ、ゲスである事になんら情状酌量の余地はない。
   リュリュは焦った。
   そりゃもう、焦りに焦った。
   明らかに年上の御姉様と、幼女。
   その間で揺れる自分は、果たして正常な感性を持っている男なのか、と。
   そんな動揺を隠せないリュリュに、管理人ことアルマ=ローランは
   首を捻りつつも、おもてなしを行った。
   本日の間食は、配達人イビルアイが持ってきた、必殺のフルーツ『キルレイン』。
   その酸味の強さで馬も殺せると言われる食材は、何気に高価だ。
   最大級のもてなしと言える。
   リュリュは喜んだ。
   そして、確信した。
   これは、神様の与え給うた最高の贈り物。
   彼女も女神。
   幼女も女神。
   女神を振るなど、人間としてやっちゃいけない事。
   それは神殺しにも匹敵する大罪。
   だから、二人とも愛する事は、正義。
   そんな壮大な言い訳を心中で繰り返しながら、リュリュはキルレインを
   食べて壮絶死しかけた。


   翌日。
   まだヒリヒリする舌を気にしつつ、リュリュは酒場を目指した。
   昨夜は、宿屋に一泊。
   この【メトロ・ノーム】には、無人宿屋が存在している。
   自由に客室を使っても良い、と書いてあったので、遠慮なく利用した。
   夢のような環境。
   リュリュは、困ったことがあったらここで暮らそうと決意しつつ、
   酒場の扉を開く。
   ここへ来たのは、マスターから情報を得る為。
   情報屋と酒場は、切っても切れない関係にある。
   情報屋にとって、酒場はいわば職場。
   酒場にとって、情報屋は優良な顧客。
   相性は最高だ。
   リュリュは膨れた体型のマスターに、魔草『クレシエンテ』について尋ねた。
  「クレシエンテか……その情報は、新参には売れんな。幾ら女の子の
   頼みとは言え、こっちも色々な柵の中で生きているんでな。悪く思うなよ、嬢ちゃん」
   例によって女の子と間違えられたリュリュは、その事よりも情報を得られなかった
   事に失望し、ガックリと項垂れた。
   だが――――その時。
  「おっ、随分とカワイイ客がいるじゃねぇか」
   そこへ、一人の男が現れた。
   バンダナで頭を覆っていて、眼つきがやたら悪い、明らかなゴロツキ。
   リュリュは困惑した。
   苦手なタイプだ。
  「アドゥリスか。何の用だ? 貴様に飲ませる酒などないぞ」
  「つれねぇ事言うなって。コイツらがよ、上の酒場じゃ出入り禁止に
   なっちまって、飲めねぇって泣きついて来てよ。オラ、挨拶しろ」
   そんなバンダナ男ことアドゥリスの紹介を受け、その後ろから
   ズオッと現れた二人の巨体が、ガハハ、オホホと笑う。
  「バモケノ=ソラスだああァァァァァァ!」
  「ヨカーイ=ソラスよォオォォォォォォ!」
   事故紹介だった。
  「っつー訳で、コイツ等のサイズに似合う酒ヨロシク。巨漢同士、
   気が合いそうだろ? 気ィ利かせて連れてきてやったんだから、
   奢ってもバチじゃ当たらねぇぜ?」
  「……ふぅ」
   マスターは嘆息しつつも、自分の仕事を全うすべく、酒樽を二つ抱え
   二人の座る席の傍にドスン、と置いた。
  「奢りはしないぞ」
  「チッ……ま、いぃか。テメーら、今日は愉快に飲み倒しな」
  「うはあァァァァァァ! 酒! 酒! 酒ぇすとおおおおォォォ!」
  「あぁん! 酔っちゃったアタシをどうするつもりなのォォォ!?」
   世にもおぞましい酒盛りが始まる中、これ以上の情報収集は無理と
   判断し、リュリュはこっそりと酒場を――――
  「そこのガキ。テメーも飲めよ。お兄さんが奢ってやっから」
   出られなかった。
   その後、何度も断ったが振り切る事が出来ず、結局飲み込まれ――――
  「ガハハハハハハハァァァ!」
  「ウフフフフフフフゥゥン!」
   リュリュは、気付けば――――化物二人と10度目の乾杯をしていた。
  「テメー、ガキのクセに酒強ぇじゃねぇか。女でも、鍛えりゃモノになっかもな。
   よし! テメー、今からオレら土賊の仲間だ!」
  「仲間だああああああァァァ!」
  「仲間よおおおおおおォォン!」
   斯くして、情報屋リュリュ=ミントアークの明日はどっちだ。 
  
   

   
  
   

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