「すずなー。ごはん出来たから、下りてきなさいー」
「はーい」
 夜。
 とっても嬉しいコトがあったこの日、わたしは家に帰ってからずっと、手紙を書いていた。
 芹ちゃんや桔梗ちゃんに、じゃない。
 穂邑ちゃんに、でもない。
 お母さんにでも、ピノにでもない。
 未来のわたし。
 今よりも、少しだけ大人になったわたしへ向けてのお手紙なのです。
 だって、このすごく嬉しい気持ちを、忘れたくないから。
 忘れるつもりはないけど、これから起こる色んなコトに上塗りされて、ボヤけちゃうかもしれないから。
 だから、今、気持ちがワクワクしてる今、それを書いておきたかった。
「すずなーっ」
「は、はーい。今行くーっ」 
 お手紙は、出来た。
 後はそれに、コレを添えるだけ。
 わたしはその宝物を胸に抱いて――――祈るように、封筒の中にしまった。

 

 
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 …………
 ……

 


「わたし、このキレイな剣を作るっ」
 幼い頃のわたしは、確かそんなコトバを自分の中で言ったんだと思います。
 口にはしてなかったかな?
 周りには、誰もいなかったから。
 でも、わたしは確かにそう言ったと記憶してます。
 だからそれは、約束でした。

 指きりげんまん、嘘吐いたら針千本、飲ーますっ。

 きっと、あの頃のわたしは、未来のわたしにこう言ったと思います。

 時間が経つのは、あっと言う間。
 紆余曲折あって、今日、わたしの剣は完成しました。
 それは、とってもヘンな形で、時折ちょっと曲がり角な、うねうねした剣でした。
 表面もザラザラしたトコロがあったり、色褪せたトコロもあったり、細かい傷が入ってたりして、とてもキレイって言って貰える仕上がりではありませんでした。

 わたしの理想とする剣は、エクスカリバーです。
 世界的な英雄さんがその手に取った、とされている、世界で一番有名な剣をとっても有名な会社が再現した、最高の一品です。
 わたしはその剣を、実際に見たコトがあります。
 その剣は、まるで宝石がつまった宝箱みたいに、見ているわたしを一晩中、飽きさせませんでした。

 そのエクスカリバーと比べると、わたしの作った剣は、お遊びで作ったモノに 過ぎないのかもしれません。
 美術的な価値は、ゼロ。
 もちろん、剣としては使い物にならないし、きっとお金を出して買う人もいないでしょう。
 貰ってくれる人だって、いないかもしれません。
 先生には褒められたけど、お友達の作った剣の方が、ずっと上手に見えました。
 それが、わたしが生まれて初めて作った剣の出来栄えでした。

 わたしはずっと、夢に思ってました。
 自分の手で剣を作るコトを、ずっと、ずっと夢見てきました。
 エクスカリバーを最初に見た日から、ずっと、その未来に照準を合わせて生きてきたつもりです。
 一生懸命、夢を見ました。
 そして、それが現実になって、その現実が形になって。
 完成したわたしの剣は、今まで何百回も夢に見てきたその夢の中の『わたしの最初に作った剣』と比較して、その中でも一番ダメだったと思います。

 いっぱい、いっぱい、見てきた夢。
 描いてきた理想。
 希望と未来。
 わたしは今日、それを裏切ったのかもしれません。
 子供の頃のわたしの期待に、15歳のわたしは応えられなかったのでしょう。

 でも。

 それでも、わたしは自分の作った剣を、一生取っておくつもりです。
 これは、今のわたしが魂を込めて作ったモノ。
 そして、芹ちゃんや桔梗ちゃん、穂邑ちゃんが協力してくれて、みんなに力を貰って作ったモノ。 
 例えキレイじゃなくても、理想には程遠くても、これは、わたしの大切な剣。
 わたしだけの、宝物なのだと思います。

 そうそう、大事なコトを忘れるトコでした。
 約束をしましょう。

 未来のあなたへ。
 元気にしていますか?
 あなたも、剣を作っていますか?
 もしかして、剣作りに慣れて、上達して、簡単にちゃんとした剣を作れるようになってるんじゃないでしょうか?
 そうなってると良いなあって願いながら、提案します。

 もしも、剣を作るコトに、なあなあになって来てたら。
 他のコトに興味を持ったり、辛くて悲しくて苦しくて、ちょっと道草してお茶なんか飲んでたりしてるのなら。
 このピカピカの宝物を見て、もう一度、この剣を作った時のコトを思い出してみて下さい。

 ワクワクしました。
 ドキドキしました。
 ゆーうつになりました。
 悲しくなりました。
 緊張しました。
 怖かったです。
 楽しかったです。
 とっても、胸が温かくなりました。

 そんな、いろんなコトを、実感しましたよね?
 そんな日のコトを、思い出してみてください。
 芹ちゃんに話しかけられて。
 桔梗ちゃんに頭を撫でられて。
 そして、穂邑ちゃんに激励してもらって。
 みんなに作らせてもらった、この最初の剣の思い出を、ちょっとだけ振り返ってみてください。
 へなちょこですけど、今のわたしの一生懸命が詰まっています。
 
 拝啓、未来のわたし。
 約束です。
 わたしの剣を、作ってください。
 誰も真似できない、わたしの記憶と理想と現実を混ぜた、わたしだけの剣を。
 子供の頃のわたし。
 今のわたし。 
 そして、そこにいるわたし。
 みんなで心を込めて、一緒に作りましょう。
 その日を楽しみに待っています。

 
 05.10.
 教室にて

 剣樹学園一年 七草鈴菜

 

 ――――いっぱいの宝物に囲まれて








                           ...Do you have people who are precious to you?





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