どのような意外な出来事でも、切欠そのものは日常のふとした会話や何気ない動作の中に
 潜んでいたりする。
 些細なケンカが殺人事件に発展したり、一本のワラを掴んだだけで億万長者になったり、
 例を挙げればキリがない。
  そして――――睦月冬もまた、その事を思い知る事になる。
「……?」
  冬の心の中に、立ち聞きしようと言う意識は全くなかった。ただ、いつものように放課後の
 進路指導室で神楽と話をしようと思い、そこに向かっていただけの事。それだけの話だった。
「まあ、無神経だよね。あんまり人と話し慣れてないみたいだし」
「うん……」
  聞こえてくる会話も、不自然ではない。直ぐ近くにあるその部屋に、神楽と佐藤――――
 友人関係にある二人がいる。それだけの事。
「そりゃ、勉強は出来るみたいだけど? なんて言うか、教え方もいちいち見下してるって言うか。
 言い方も何かウザいし」
「それは……」
「でもさ、勉強ばっかして来た人って、そう言うトコあるんだよ。私等から見たら、何て言うか、まあ――――」
  それだけの事が、突如として化ける。
「ウザい? って言うか。そんな感じだよね」
  醜い怪物に。 
「そう、かな」
「あんただって思ってんでしょ?」
  声は聞こえない。その後の答えも、何も聞こえない。冬は駆け出していた。
 何度も逃げて来た人生の中で最も早く、最も全力で走った。
  積み上げたものは、いともあっさりと崩れ落ちた。
 
  冬は、乱れる景色の真ん中で、その全てを視界から消し去った――――

 



 

                                          R.P.G. 〜あいにーちゅー〜

                    第三章 ”こわれやすいもの/こわれにくいもの”




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