きのうぼくはお父さんからゲームをかってもらいました。
かったのはむづかしいかんじのなまえのおみせでした。
お母さんにみせたらよかったねって言いました。
いもうとはじぶんもほしいって言っていました。
そのゲームはラストストーリーでした。
少しやってみたらとてもおもしろかったです。
だからよるまでやってたらお母さんからもうねなさいっておこられました。
でもぼくはとてもうれしかったです。
ねるときもゲームのことをかんがえていました。
ずっとゲームをしていたいとおもいました。
今日もかえってすぐゲームがしたいです。
でもお母さんがおこるので一にち一じかんだけやります。
いもうとにもさせてあげたいです。
お父さんありがとう。
お母さんごめんなさい。
ぼくはゲームとかぞくがだいすきです。
第四章 ”ゲームとぼく”
目覚めは小さな驚きと共に。冬のぼやけた頭には、かつて綴った思いの名残が朧げに映っていた。
「……」
まだ寝惚けたままの眼を擦るでもなく、じっと掌を眺める。
昔、自分の手がどれくらいの大きさであったか、今はもう覚えていない。
それでも――――当時の記憶は断片的に覚えている。
今まで無理矢理目を背けていた反動なのか、昨日の今日で夢に出て来た昔の映像に、
冬は思わず苦笑した。
とは言え、いきなり全てが一変する訳ではない。
睦月家の朝食は今日もバラバラで、一階に下りた冬の視界に父や妹の姿はない。
父と息子が会話したと言うだけで、翌日には絵に描いたような家族団らんが――――とは行かない。
冬にしてみても、まだ心の準備が出来ていない段階で突然和やかな食卓に身を投じるのは
かなり抵抗があったので、少しホッとしていた。
「おはよう」
食卓についた冬に、挨拶の声が掛かる。無論これまでそう言う事はなかったので、驚かざるを得ない。
その声の主である母親の方を見ると、愉快そうに微笑んでいた。
「お父さんが今朝いきなり『おはよう』なんて行って来るもんだから、移っちゃった」
それは、何処の家庭にだってある当たり前の言葉。自然に出て来る一日の始まりの合図。
「おはよう」
だから、冬も自然にそう言った。
「‥‥そのぎこちない笑顔は何なの」
しかし表情は不自然極まりなかった!
「寝起きだからだよ。寝起きだからそう見えるだけ」
「そもそもあんた、基本笑顔下手よねえ、昔から」
「そんなこと言われた事ない‥‥」
そう呟きつつも、内心冬は苦笑を禁じえなかった。
自分の表情に採点などした事はないし、採点されるような相手がいた事もない。
だが、確実に下手であろう事は予測していた。そんな事を考える機会もなかったが。
それを指摘され、何処か嬉しさを覚える。
――――これが数日前までだったら、果たして同じような感情を抱いただろうか?
「言うまでもない、か」
「ま、そりゃそうよね」
冬の独り言を、母は別の解釈で納得していた。
それを特に指摘するでもなく、冬は椅子にもたれかかってダイニングを見渡す。
地味な睦月家のレイアウトは、この客間を兼ねた空間も例外ではない。
壁には風景の映ったカレンダーの他、ゴミ出しカレンダー、温度計、エアコンのリモコン、
親戚の子供の名前をしたためた和紙くらいしかない。
その親戚の結婚式の際に貰った引き出ものの人形がテレビに持たれかかっており、
そのテレビには10年ほど前に壊れたままのVHSが未だに台替わりに置かれている。
ダイニングテーブルには黒ずんだバナナと、ややしなびたりんごが置かれており、そこに皆の朝食が
並べられていく。とは言え、現時点では冬のみの皿しかない。
冬の母の料理スキルは普通。Lv.で言うと4くらいだ。
勿論、二回に一回程度ミスるなどというような精度の問題ではなく、極めて凡庸な料理を
凡庸な味で並べると言う意味でのLv.4だ。
そして、冬はそのLv.4の料理をそれなりに気に入っている。
「‥‥」
朝は余り食べない冬だが、その日はご飯、菜っ葉の味噌汁、厚あげ豆腐の冷奴、
ひじきの煮物を完食した。