オタク。
 そう呼ばれる人種と言うのは、今や日本に一体どれくらいいるのか。
 とある集計では、300万人以上とも言われている。
 無論、その全てがアニメやゲームと言ったものを嗜好としている 
 世間的な意味合いでの『オタク』と言うわけではないだろう。
 鉄道オタクとか、車オタクとか、そう言う一つの趣味に対して異様に
 入れ込んでいる人達も多数含まれている。
 ただ、それを差っ引いても、いまやオタクは普通に数多く存在しており、
 オタク御用達の都市だって最早全国区、完全メジャー体制を敷いている。
 つまり、オタクだからと言って、恥ずかしがる理由は何もない。
 いや、ちょっとは恥ずかしがった方が記号的な意味合いとしての
 社会通念的に迎合して、色々と動きやすいし評価もされやすいのだろう。
 でも、表面的なそれらの対応は兎も角として、自身の内部でまで
 自分の嗜好を卑下する理由は何もない。
 今や、オタク的趣味など、ありふれているのだから。
 とは言え――――その境界線上にいる人間にとっては、出来ればオタクとは
 みなされたくない、と言う安いプライドも働いてしまうもので。
 例えば、深夜アニメはHDDレコーダーフル稼働で1話目は殆どチェック!
 なんて言う人は、いまさらオタクである事を否定する気などサラサラないだろう。
 あまつさえ、お気に入りのアニメはDVDとBDを両方揃え、別にそれが安い買い物だと
 思うこともなく、収録話数と値段の釣り合いが悪くコストパフォーマンスが著しく
 低いディスクであっても、特典映像が充実してれば全然問題ナッシン、なんて
 末期の状況になっていれば、寧ろそこに誇りすら生まれるかもしれない。
 だが、以下の条件の者は、そうも行かない。

『コンシューマのRPGをこよなく愛する高校生』

 RPGと言うジャンルは、オタクという観点で見ると、極めて微妙な立ち位置にある。
 例えば、パズルゲームや脳トレ、スポーツ、或いはアクションゲームなどの場合は、
 いわゆる一般人であっても普通に所持しているだろう。
 逆に、男女どちらかの比率が異様に高いADVやSLGの場合は、極めてオタク濃度が高いと言える。
 尤も、今や歴史ものすらフ女子の皆さんの毒牙にかかる時代。
 何がどうなのか、定義することすら難しい。
 そこにあって、RPGは本当に微妙なラインだ。
 ラストリをはじめ、一般人でも買うようなゲームもあれば、それこそ女性ばかりが
 登場し、何故か事ある毎にセクシーな場面をクローズアップするような作品もある。
 また、そう言った典型的なオタクっぽいRPGでなくとも、寧ろ硬派過ぎてとっつきにくいくらいの
 RPGもまた、別の意味でオタクっぽい作品と言われてしまう。
 つまり、RPG好きと言うのは、オタクかそうでないか、ギリギリのラインにいる人間の事を指すのだ。
「……」
 睦月冬は、まさにそのラインの線上にいた。
 高校生と言う年齢も、実に微妙である。
 これが大学生以上なら、問答無用でオタクと呼ばれるかもしれない。
 中学生なら、まだ一般人の範疇だ。
 高校生。実に微妙な立場である。
 だが――――冬は、自分がオタクかどうかで悩んだ事はない。
 別にどっちでも良いからだ。
 それを恥じる相手もいないし、否定するほど何か守るものを持っているわけでもない。
 オタクと呼ばれようが呼ばれまいが、どうでも良いと思っている。
 だが、そんな彼に、この問題が現在かなりシビアな状態で押し寄せていた。
「……どうしよう」
 冬は思わず自問する。
 その理由は、たまたま聞いてしまった一つの事実にあった。
 神楽未羽の誕生日である。
 なんと――――明日だと言うのだ。
 猫の健康状態を尋ねるメールを秋葉に送った際、返答メールに素朴な言葉で
 それを知らせる旨の文章が添えられていた。
 知った以上、何かプレゼントをしなくてはならない。
 何故なら、冬がそうしたいと思っているからだ。
 だが、その目標の達成の為には、幾つものハードルが待ち構えている。
 現在、学校は夏休み中。
 渡すのにも一苦労だ。
 既に連絡先どころか居住地まで知っているので、物理的な意味で届けるのは容易。
 だが、それは難易度を推し量る材料とはならない。
 精神的なものがほぼ全てを占める。
 わざわざ休みの日に、わざわざプレゼントを届ける。
 これはもう、告白レベルの自己表現である。
 冬にそんな勇気があるかと言うと――――ない。断然ない。圧倒的にない。
 しかしながら、何もしない訳にも行かない。そうしたくはない。
 そんな二つの感情が、今の冬の心を左右から押し潰していた。
 胸が痛い。
 冬にとって、初めての経験だった。
 ハードルは、それだけでない。
 プレゼントの中身こそ、一番大きな障害物かもしれない。
 ここで、先述の問題が浮上する。
 そこに、固有名詞を加えてみよう。

『コンシューマのRPGをこよなく愛する女子高生、神楽未羽は、自分をオタクと思っているか』

 これは、大きな問題だ。
 もし思っているのなら、プレゼント内容にそのオタク的要素を含めたとしても、
 取り敢えずはセーフだろう。人間としてはどうかと言う問題もあるが、少なくとも
 プレゼントの幅はかなり広がる。
 だが、思っていない場合――――アウト、超アウトとなる。
 最悪、絶縁も視野に入れなくてはならない。
 それくらいの爆弾である。
 流石に、冬はそのリスクを背負う気はなかった。
 つまり――――今の冬を悩ませているのは、一切のオタク的要素を排除したプレゼントを
 選ぶ、と言う点に集約されている。
 冬は、まずベッドの上で寝転び、脳内シミュレーションを開始した。
 オタク的要素のないプレゼント。
 そもそも、一般的に言われる『プレゼント』にオタク要素がある筈もないのだが、
 冬はゲーム以外にどう言った物を神楽に渡せば喜んでもらえるか、まーったく想像できずにいた。
 幾ら冬がゲームバカでも、世間的にどう言う物を送れば世の女性が喜ぶかと言う情報くらいは
 ある程度頭に入っている。
 ブランド物のバッグ。
 アクセサリー一式。
 財布。
 安上がりならば、携帯ストラップでも良いだろう。
 だが、ピンとこない。
 ブランド物は経済的な理由からそもそも却下だし、それ以外の物も、神楽がどの程度
 喜ぶのか想像してみたが、まるで要領を得ない。
 そこまで考えて、冬は愕然とする。
 自分自身が、神楽未羽と言う人物をこれほどまでに知らない、と言う事に。
 ゲームが好き。それは知っている。
 それ以外では、本当に数えるほどのパーソナリティくらいしか知らない。
 母親と和解し、良い関係を築いている事。
 割と活発な性格だが、繊細な部分も持ち合わせている事。
 合コンが苦手な事。
 気さくで、話がしやすいところ。
 でも、それらは彼女がどんなプレゼントを喜ぶかと言う点において、決定的材料とはならない。
(……こう言う時は、あれに限る)
 冬は、部屋を出て街に向かった。
 こう言う時に便利なインターネット。そして、それを利用できる環境は、街の中に
 幾らでもある。
 取り敢えず、適当なネットカフェに入り、ちゃっちゃとパソコン起動。
『女子高生 プレゼント ランキング』で検索を掛けてみることにした。
 ランキングを直ぐにアテにするのは、冬のパーソナリティがまだ確立できていない
 ことを意味する。
 とは言え、今はそう言う人間的成長に関してこだわっている余裕はない。
 出た結果から良さげなサイトを探し、アクセスを試みる。
 すると――――やはりトップはアクセサリーだった。
 2位には癒し関連グッズ。世の中はすっかり疲れ切っているらしい。
 今の神楽にはそう言う傾向は見られないので、冬は次に視線を移した。
 インテリアグッズ。社会人なら喜びそうだが、女子高生には微妙なアイテムだ。
 文房具。これはかなり良さげだった。
 お菓子・スイーツ。気楽に渡せるが、形に残らない。
 ぬいぐるみ。流石にこれは年齢的に厳しい。
 手書きの手紙。今の時代には即さないところが逆にいいのかもしれないが、重い。
(……文房具、雑貨。この辺りかな)
 重くもなく軽くもなく。
 冬は、そう言うプレゼントを考えていた。
 それは、ある意味妥協案とも言える。
 今の関係に刺激を与えたくないと言う、ある意味弱腰な選択だ。
 とは言え、今の冬にはこれが精一杯。
 そう言う意味では、中々良い選択と言えるだろう。
 少なくとも、冬はそう思っていた。
 範囲が大きく絞れたところで、次はどんな文房具や雑貨を
 選択するか、だ。
 流石にこれまでインターネットに頼るのはどうかと思い、
 冬はすぐさまネットカフェを出た。
 向かうのは、郊外にあるセレクトショップ。
 流石に、プレゼントを文房具店や100円ショップで買う訳には行かない。
 それなりの店で、それなりの物を買いたかった。
 ちなみに、冬はこれまでに誰かにプレゼントをした経験は、
 両親にしかない。
 しかも、かなり昔のこと。
 少なくとも、中学生になって以降は一度もない。
 当然、セレクトショップなんて入った事もない。 
 佐藤が以前話していた事を思い出し、その店に行く事にしたのだ。
 ちなみにセレクトショップとは、その店のオーナーなどが自分の
 センスで商品を決め、卸しているお店のことだ。
 大抵、服飾の小売店を指すのだが、中にはインテリア雑貨や
 文具を取り扱う店もある。
 冬が訪れたセレクトショップは、そう言った物も多数仕入れていた。
 店員の丁寧な応対に感心と緊張を抱きつつ、冬は店内をうろつき、
 雑貨のコーナーを見つけ出す。
 そこには、普段コンビニや量販店で見る文房具とはまるで違う、
 実に多用で、それでいて珍貴な物が沢山置かれていた。
 冬はまず、ハンカチに目を向けた。
 ブランド物とは違い、そこまで効果ではない。
 とは言え、ガラスケースに入っているので、高級感は
 かなりアピールされている。贈り物としては悪くない。
 だが、本当にそれが喜ばれるかと考えると、中々それは
 上手く行きそうになかった。
 と言うか、ハンカチと言う物体が、どうやって人を喜ばすのか
 想像できなかった、といった方が正しいかもしれない。
 冬は、機能性を重視する。
 ゲームと言うものに大きな価値を見出す人間は、そのレジャー性、
 エンタテイメント性に充足感を得る。
 ハンカチと言う、日常にありふれており、使用する事で
 なんら感動や知的好奇心の充足が得られないその布切れに、
 冬自身が魅力を感じないのだ。
 無論、それは冬の感性であって、神楽がそうだとは限らない。
 同じゲーム好きでも、それ以外の嗜好が一致する可能性は
 寧ろ低いと言えるだろう。
 案外、ハンカチで凄く喜ぶかもしれないのだ。
 とは言え、世の中のプレゼントで、ハンカチと言うものが
 どれほどセレクトされているかと考えると、微妙な心持に
 ならざるを得ないのが実情だった。
「何かありましたら、お声をかけて下さいませ」
「ふえっ!?」
 突然、店員が声を発した。
 それは、かなり洗練された声のかけ方と内容だったのだが、
 冬は思わず驚愕を覚えてしまい、オーバーなリアクションを
 してしまう。
 それでも、店員は笑ったりせず、逆に申し訳なさそうに
 謝ったりした。
 かなり気配りが行き届いている店のようだ。
 セレクトショップと言うのは、その性質上、どうも
 自分本位な店員やオーナーが多い。
 だが、この店はその類ではなかった。
 冬は鼓動を抑えると同時に、そのことに感心と感謝を覚える。
 そして――――同時に、ある商品にその目を留めた。
 驚いた頃で、視点が大分泳いだ結果、そこに着目する事が出来たのだ。
 それは、ボールペンだった。
 文房具店の特別高いコーナーにあるように、やはりガラスケースに
 陳列されているのだが、その外見は結構独特だった。
 先と尻軸は、若干透明なカラメル色だったが、胴軸――――即ち
 手で触れる部分は、赤、茶、黒、薄茶のチェック模様の布地を巻いている。
 美的センスなどない冬だが、そのボールペンは素直にお洒落だと感じた。
 布地も、ブランド物を思わせるデザインだし、高級感もある。
 色合いはやや地味だが、シックと言えば聞こえも良い。
 大人の嗜好品と言う感じだ。
 冬は、そのボールペンを神楽が使っている場面を想像した。
 決して大人びた雰囲気と言うわけではない彼女だが、チェック柄が
 良い具合にシックさを緩和していて、良い感じに収まっている。
(値段は……げっ)
 5000円台だった。
 ボールペンでこの金額は高い。
 この値段の物を使用している高校生は、そうはいないだろう。
(……ええい! 買ったれ!)
 それでも、冬は購入に踏み切ろうと決意する。
 それが、冬の――――
「……ほうっ!?」
 突然ちょんちょん、という感触を肩に受け、冬は再び素っ頓狂な
 叫び声を挙げた。
 店員が現れたのかと思い、振り向くと――――そこにいたのは、
 秋葉だった。
 キョトン、と言う擬音が似合いそうな顔で、冬をマジマジと
 見つめている。
「あ、えっと、あー……こんにちは」
「こんにちは」
 何とも言えない間で、秋葉は返事をする。
 そして、冬が手を置いていたガラスケースに視線を送り、
 暫くして、再び冬に視線を戻した。
「喜ぶと、思いますよ」
「……え?」
 冬がその言葉の意味を理解する事は、この場では叶わなかった。
 何故なら、言葉を分析しようとする前に、その目の前で
 それ以上にインパクトのある現象が起こったからだ。
 秋葉が、笑っていた。
 でも、その笑顔は、どこか寂しさを募らせたような、遠慮がちで
 小さいものだった。
「睦月さんは……」
「あ、うん。何?」
「いえ。何でもありません」
 何かを言いかけ、秋葉は踵を返す。
 そして、暫く立ち止まり――――背中越しに口を開いた。
「睦月さんは、動物は好きですか?」
 突然の、突拍子のない質問。
 冬は内心混乱しつつも、その解答を探した。
「まあ、結構。猫は好きかも」
 最初は、好きでも嫌いでもなかった。
 しかし、一度特定の猫に情を移した事もあり、今はそんな
 嗜好状態になっている。
「もっと早く、出会いたかったです」
「……?」
 秋葉は、殆ど聞き取れないような声で呟き、そのまま
 店を出て行った。
 買い物をした形跡は見られない。
(俺がいたら買いにくい物を買おうとしてた……のかな)
 冬は、余り自信のないその推理を切り上げ、自身の様子を
 ずっと伺っていた店員に声をかけた。

『ちょこっとマンションの前に出て来て欲しいんだけど』

 翌日。
 メール送信に緊張したのは随分久しぶりだと自覚しつつ、
 冬は昨日からの目的を果たす為、神楽家のあるマンションの前で
 じっと待っていた。
 時刻は午後5時40分。
 
 10分後、神楽が出てくる。
「なにー?」
 その顔は、とても穏やかで機嫌良さげだ。
 おそらくは、これから母親と誕生日パーティーでも開くのだろうと、
 今度は建設的な推理をしつつ、冬は後ろに隠していた包装紙を
 前に差し出す。
 この時間を選んだのは、一応理由があった。
 メインパーティーの前の、小さなサプライズ。
 それが、一番渡しやすい立ち位置だと思ったからだ。
「えっと……」
 それでも緊張はする。
 幾らゲームオタクだろうと、女子にプレゼントを贈ると言う
 この状況で、平常心でいられるはずもなかった。
「誕生日、おめでと」
 少し震えている手で、冬はその包装紙を差し出す。
 ボールペンなので、かなり細く、見栄えはイマイチ。
 でも、店員に贈り物だと言う旨を話したら、結構ゴージャスな
 包装をしてくれたので、それなりに整ってはいる。
 昨晩、冬はそれを差し出した時の神楽の反応を
 13パターンほど想像していた。
「……えっ」
 そして、実際の神楽の反応はと言うと――――2番目に想像し、
 最も想像時間の短いそれと酷似していた。
 つまり、あり得ない理想。
 自分と同じように、震えながらそれに手を伸ばし、信じられない
 といった面持ちで、プレゼントを胸元に引き寄せると言うものだった。
「開け……開けるねっ」
「あ、うん」
 まだ陽の高い、午後6時前のマンションの前で、2人の間には
 とてつもなく張り詰めた空気が漂っている。
 冬には、神楽の所作がとても緩慢に見えた。
 時間が経つのがやけに遅く感じられた。
 自分が選んだ、オタク要素皆無の、人を喜ばせたい一心で
 見つけたボールペン。
 どんな感想を持たれるのか――――
「わ……可愛い」
 冬は、心の底から安堵した。
 流石にボロクソ言われる事はないと思いつつも、表情の中に
 微かに浮かぶ失望感などをが見えてしまったならば、
 暫く立ち直れなかっただろう。
 幸い、そう言う表情は微塵もなかった。
「これ、高かったんじゃない?」
「んー」
 冬は、肯定とも否定とも取れない言葉で返事を濁した。
 謙遜して全否定するほど、大人にはなれない。
 まして、少なからず、高かった事をアピールする理由もあるのだから。
 それだけ、ちゃんとした物を贈りたかったと言う。
「良いの? 貰うよ?」
「そりゃ、誕生日プレゼントなんだから。貰ってくれよ」
「そうじゃなくて……私、男の人からプレゼントなんて貰うの
 初めてだから」
 冬はその言葉の意図がわからず、同時にその内容に喜びを覚えつつ、
 少し混乱気味に次の言葉を待った。
「これ、重いよ?」
 そう呟く神楽の顔は――――俯いていたので、冬には見えなかった。
「軽いだろ。ボールペンなんだから」
 だから、冬は軽口を叩けた。
 勿論、言うほど軽くはないのだが。
「……バカ! バーカっ!」
 神楽は罵りの言葉を連呼しながら、そして目を瞑るくらいの
 思いっ切りの笑顔を作りながら、駆け足でマンションに
 駆け込んで行った。
「……ふーっ」
 冬はそれを見送り、神楽の背中が消えると同時に、全力で
 ため息を落とす。
 言うまでもなく、緊張によって生まれたものだ。
 まだ鼓動は尋常じゃない速度で胸を叩いている。
 どれだけ緊張する場面でも、どれだけ全力で走っても、
 こんなに心臓の音がはっきり聞こえる経験を、冬はした事がなかった。
 それに、身体が尋常じゃないくらい熱を持っている。
 それ自体を、とても恥ずかしく思いつつ、走って帰ろうと
 マンションに背を向ける。
「ありがとーーーーーっ!」
 その背中が、ビクッと震えた。
 冬があわてて振り返ると、マンションの4階から身を乗り出した
 神楽が、思い切り手を振っている。
「……」
 冬は手を上げてそれに応える。
 お互いの表情が殆どわからない距離で、2人はいつまでもそうしていた。
 心地よい高揚感に、その身を預けながら。




 

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