■Prologue |
今日もまた、生産性のない一日だった。
現在に付随した苦痛を凍結させた代償。
傷は疼かないけど、決して治りもしない。
下書きを描いては消しての繰り返し――――例えるなら、そんな毎日。
俺はなんでこの道を選んだんだろう?
そう思いながらも、これしかないんだよなと自問自答し、机の上のノートパソコンの画面を眺める。
そこにあるのは、今し方完成させた絵。
需要もなければネット上で発表する意欲もない、無価値な絵だ。
ペンタブとスタイラスペン、マンガ制作ソフトを使ったイラストの描画は、芯もインクも減らないし、消しゴムの消しカスすら生み出さない。
だけど心が磨り減っていくのは、もう潮時なんじゃないかっていう自分の悲鳴に思えた。
俺の絵はもうダメなんだろうか?
この世界では毎月、数多くのマンガやラノベ、ゲームが生まれているのに、俺は誰からも必要とされていない。
わかってる。
わかってるのに、抜け出せない。
やっぱり俺には、これしかないから。
イラストを描く以外に、社会の中に入っていける能力はない。
完璧にして完全なる袋小路。
閉塞感漂う四畳一間の安アパートの一室で、羽虫が蛍光灯とパソコンの光を行ったり来たり。
その姿に自分を重ね、俺は嗚咽しそうになる自分を必死に抑えながら、仕上げた絵を保存してペンを置いた。
やり直したい。
日課のような希望を心で呟いた俺は、そのまま閉じたノートパソコンの上に突っ伏す。
刹那――――奇妙な浮遊感に襲われた。
睡魔とも目眩とも違う、明らかな違和感。
その直後、俺はノートパソコンの冷たい感触が消えている事に気付く間もなく、床に転げ落ちた。
いや……床じゃない。
やたら固い感触と激痛、妙に鼻を突く石の匂いが、俺の瞼を強引にこじ開けた。
そこは外だった。
いや、外とかそういう次元の話じゃない。
見覚えのない場所。
見た事のない建築物。
そこは――――異なる世界だった。
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